フランティシェク・クプカ展ーグラン・パレにて。
86年の生涯の中で様々な芸術表現を試みた抽象絵画の先駆け。
グラン・パレ展では3月末から長らく彼の回顧展を行っていましたが、先週が最終週だったので、遅ればせながら行ってまいりました。フランティシェク・クプカは1871年に当時の東ボへミア(現在のチェコ)のオポチュノという小さな村にて生まれ、86年の生涯の間に彼の芸術の表現方法を模索し、様々な試みをした抽象絵画のパイオニアとして知られています。
初期には象徴主義。
学生時代はプラハやウィーンの美術アカデミーにて学びます。その頃には象徴主義、寓意的な題材に傾倒しており、初期作品では神話や寓話を題材に神秘的な絵画や風刺的な作品を残しています。1894年にはパリに移り住み、エコール・デ・ボザールにて学びました。
こちらシリーズになっている作品なのですが、緑のお腹が光っている生き物がお金を象徴するキャラクターとして描かれています。彼はシーソーの真ん中に堂々と立って、シーソーに乗っている革命を意味する女性を見ています。その反対側には今にも落ちそうな国王ルイ16世が乗っています。革命時の社会情勢を風刺した作品です。
絵の制作や思索に耽り徐々に人と距離を置くようになる様子がこの絵からも見て取れます。綺麗なお嬢さん3人がすぐ近くにいるというのに、目もくれず読書に耽けっている男性の絵です。
オルフィスムの画家として分類されています。
彼はパリにてキュビズムの影響を受けて段々と抽象的な絵画を描くようになり、またオルフィスムと呼ばれる芸術運動の方向へ行きます。具体的な色や輪郭で題材を再現せずに、色と形で抽象的な概念を描き出そうとしています。まるで音楽が私達に伝える感覚のように、絵画を操り概念的に表現をしようと試みました。そのためとても色彩豊かに表現されています。
こちらは最愛の妻の肖像画で、彼がなくなるまでずっと手元に置いていた作品でした。色彩豊かな長方形のイメージが並ぶ中に、彼女の表情が浮かんでいます。まるで彼女のオーラもしくは元気な歌声が彼女を包み込んだかのような温かく愛に溢れた美しい作品です。あまりの美しさにうっとり。
こちらはピアノの鍵盤、音楽と、湖 そして自然が一体化しています。なんというイマジネーションでしょう。ピアノを演奏する人の手が右下に見えています。演奏者の奏でる音楽がまるで水の揺らめき、そして大自然を想起させるという雰囲気がこちらに伝わってくるようです。
胴体は常に動いています。その動きに焦点を当てて、どのように動きを芸術の中で表すことができるのか試みている作品群です。椅子から立ち上がって花を摘もうとしている女性の動きを一コマ一コマ区切って1つの作品の中に描いています。動きの動作をそれぞれ色を変えて表現しています。
人の人体の絵にしても、動きの感じられる部分がよりカラフルに描かれています。寝そべっている女性が足だけぶらぶらさせてリラックスしている図に段々見えてきます。
時が進むと、抽象絵画でかつ幾何学傾向が見られるようになります。こちらは教会のステンドグラスです。縦長の長方形の集まりで表現された絵画からは幾何学的で無機質ながらもガラスの光やゆらめきも感じることができます。少し離れて見てみると教会のステンドグラスがきらめいている雰囲気が伝わってきます。
教会の他の作品をアップで撮影してみました。細やかな光の繊細さ、太陽光の入ったステンドグラスの淡い光の感覚が美しく描かれています。
こちらは冬の記憶というタイトル。とても繊細に描かれた不思議な形の模様が連なっています。
下記の絵も、もう何を描いたのか把握できませんが、精神的なものなのか、物理的なものか、鑑賞した人それぞれの解釈で見方が変わってくることでしょう。赤と青は彼の絵の中で動きを表すキーカラーでよく使われているそうです。
1927年頃の作品では機械の動きを観察し描いています。
最強の抽象画
そして彼の後期作品は抽象概念とは単純化し、必要のないものは削除するというレベルにまで達しています。1930年に描かれた作品は白いキャンバスに3本の黒い線があるだけ・・?まっすぐに立っている黒い線の下に彼のサインが書かれ、さらに上から重ね塗りされて消されています。普通このような場所にサインは入れないそうなので、これも一種のオートポートレートなのでは?という意見があるようです。そうすると他の2本線は家族?絶妙なプロポーションで描かれた美しい線です。
1910年に描かれたオートポートレートはこのような感じでした。まさにご本人そのままです。大胆なタッチで顔まわりに緑や白、オレンジの絵の具がドッと塗られていますがとても生き生きと感じられます。
下記一番左の作品は彼の亡くなった1957年に制作された作品です。3つの青と3つの赤という題名で、微妙に薄い色から濃い色にと変化しています。
クプカというと主題がわからなくなっているカラフルでモダンな抽象画のイメージがあったのですが、今回の回顧展を通して、彼の様々な芸術表現の試みと作風の変化を目の当たりにし、改めてクプカは豊富な魅力を持っている画家さんなのだということを感じました。
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